先輩探偵の教え

私はあまり高級品を持ちません。
それを驚かれることがよくあります。

探偵というと1件の依頼で数十万～数百万が相場。
そこから人件費などが出ていくにしろ、儲けは相当なものだというのが一般的なイメージですよね。

収入については否定しません。
が、なぜ高級品を持たないのか？

私だって持ちたい時期はありました。
まだ探偵を始めたばかりの若い頃です。

「こんなに稼げるんだから」と浮かれていました。
それまでは、なんでもなるべく安い店で揃えていたと思います。
そんな私が、友達と「ロレックスの時計が欲しい」だの口にするようになりました。

寒くなりかけた頃、先輩方の前でジャケットを購入しようと思っていると話しました。
それまでは手の届かなかったブランドのジャケットです。

自分ではワクワクする話だと思ったのですが、すぐに笑い者にされました。
「そんな高いジャケットが捨ててあったらラッキーだよなあ」
私は意味が分からずにいました。

「あのな」と先輩は話し始めます。
「張り込んでる最中は寒いかもしれんが、いつ走らなきゃならんかも知れない」
「そのうち暑くなって、上着を捨てて走ることもあるんだぞ」

もちろん、取りに戻ったところで捨てた場所にそのままという可能性は低いです。
自分が捨てていったのですから、持っていかれても泣き寝入りするしかありません。

だからジャケットやコートなどの上着はもちろん、邪魔になる可能性のあるものは安物にしておけ。
それが先輩からの教えでした。

以来、高級品は最低限しか持ちません。