困った依頼人の一例として、探偵員にチップを渡す方に何人かお会いしたことがあります。
もちろん日本に「チップを渡す」なんてルールはありません。
暗に「契約外のことをお願いしたい」「自分の言うことを聞いてほしい」ということなのでしょう。
「暗に」と書いたのは、要求を口に出さない人もいるからです。
いわゆる恩着せですね。
「この人にはチップももらちゃったし、サービスしなきゃいけないなぁ」という気持ちを働かせるためです。
一方で、明確にお願いしてくる方もいます。
「隠れて証拠を探すだけじゃなく、現場に突入してほしい」とか。
探偵の仕事とは少し外れたお願いが多いように感じます。
依頼してくださるお客様もいろいろ困られて、こうした決断に至ることは重々承知です。
しかし、探偵員に袖の下の渡して契約外のことをさせるなどしてはいけません。
後からトラブルになるケースがあるからです。
知り合いの探偵社でこういうことがありました。
浮気調査の依頼人は奥様。
ご主人の浮気が明らかになって激怒した様子だったそうです。
思い立ったように彼女は、探偵社の若いのにチップを渡してお願いしたのです。
「主人の恋人を誘惑して、引き離してほしい」と。
つまりは別れさせ屋をしてほしいということですね。
しかし、若い探偵員は別れさせ屋としての技術などない上、探偵としても未熟です。
恋人を誘惑したまではよかったのですが、あっさり探偵だとバレてしまいました。
そこで「おたくの探偵社のせいで、私が探偵を雇ったのがバレてしまった」と言われても困ります。
この奥様がチップで探偵員を動かさなければ、問題のない計画だったのですから。
探偵社での調査は契約通り遂行します。
そのあとのことは自己責任でお願いしたいと思います。